2015年05月15日

わからん飼い主

ペットは飼い主に似る。
 一般的にはそういわれる。
 ロクは特別だった。
 わけのわからん飼い主一家に引き換え、真面目で賢かった。
 しごくまっとうな犬だった。
 そこが既に特別である。


 門の内側から玄関までの あまり広くないスペースに犬小屋を置き、
 ロクの居場所になっていた。
 一応 庭もあったが、
 今時はほとんど見なくなった 六軒の家がくっついた長屋形式の住まいで、
 両側を他家にふさがれており、
 散歩に連れ出す度に、 足を拭いて 家の中を横断せねばならず、
 めんどくさがりの飼い主一家は、 小屋を移したのだった。

 よくいう事を聞くばかりか、
 言わなくても 飼い主の意向をくみ取るような子だった。
 ご近所とも すぐに仲良くなって、 人気者になった。
 無駄吠えはせず、 飼い主よりもお行儀が良い。


 新聞屋さんの 集金に来る少年がいた。
 彼は、 呼び鈴を押すや、 門から飛びのき、 恐る恐る声をかけてきた。
 犬が恐いという。
 どこかで咬まれた事があったらしい。
 「おとなしいし、 絶対に咬まないから、 大丈夫よ。
 そんなに怖いなら、 押さえているから」
 と言っても、 近づこうとしない。
 トラウマ化していたらしい。
 仕方が無いので、 鎖でつなぎ、
 絶対に届かない事を示して、 門の外で応対した。

 翌月、 同じ少年が集金に来た と気がつくやいなや、
 ロクは、 犬小屋の陰に 隠れたのだ。
 犬小屋は、 門の外からは見えにくい位置にあった。

 新聞少年は、 犬が居ることを忘れてしまったのか、
 居なくなったと思ったのか、
 それから毎月 元気に集金にやって来た。
 その後も、 ロクの姿を見ることはなかったと思われる。



Posted by ゃはねぬ at 12:43│Comments(0)
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